monologue〜今宵、盗みます〜 シナリオ
Chapter 1
「ちょっとでも"捕まる"だなんて考えてるんだったら、来なくたっていいんだぞ?ブリジット。」
ジェラールは諭すように言う。
「・・・仕方ないですね。」
ブリジットは少し呆れた様子だ。
「覚えてるか?ロダンの彫刻を盗んだときは、あんな重いもんを担いだまんま4キロだったか?
5キロだったか走っただろうが。それに比べりゃ、今日の盗みなんてな、ちょろいもんだろう。」
「走ったのは3キロですし、彫刻を担いでいたのは私です。」
「・・・・・。」
屋敷を見上げ沈黙したまま、数分が経過する。
「あれだ、あれのときは俺も結構がんばったぞ。
最近流行り出したセザンヌの風景画を盗んだときは、
錠前を何個こじ開けたかもう思い出せんぞ。
それに比べりゃ、今日の盗みなんぞ、大したこたーないだろう。」
「親分がこじ開けたのは最後の1個です。それ以外は私がこいつで開けました。」
無表情に針金を取り出す子分。
その後も何度かジェラールは過去の盗みを引き合いに出したが、
半分呆れ気味のブリジットにやり込められてしまった。
「・・・・・・。帰るかー?」
ジェラールはいじける様にそっぽを向く。
それを見たブリジットは、少し微笑むと、
「ま、盗みの計画を考えたのは全部親分ですし、
こういった盗みの手先を教えてくれたのも全部親分なんですけどね。」
と、今までの冷静な口調から少し高めの声で機嫌よさそうに語った。
その表情からは、機嫌を取る様子は微塵も感じられず、どこか憧憬に浸るようでもあった。
彼女は本当にジェラールを尊敬していた。
それを聴いた当のジェラールはというと、
「そうだろう。お前は本当にできのいいわかった奴だ。」
手の平を返したかのように上機嫌になる。
良くも悪くも単純な男である。
「さ、それでは"エレガント"な盗みの準備はいいかね?ブリジット君。」
「ええ。」
「では行こう。」
そうジェラールが告げるとブリジットは足早に歩き出す。
が、肝心のジェラールが前を歩くどころか先ほどの場所で立ち尽くしてしまっている。
「どうしたんです?親分。」
ブリジットが怪訝そうな顔をして訊ねると、
ジェラールはばつが悪そうな表情を作りこう訊ね返した。
「えっとそれで・・・今日盗むのはなんだったっけ・・・・・・?」
「・・・・・・ミレーの『晩鐘』です。」
ブリジットは再び呆れた表情を作った。