monologue〜魔法が解けるその前に〜 シナリオ

「卑怯者ってのはね、きみが何をしたか、ってことで決まるんじゃなくて、
きみが何を後悔してるかってことで決まるんだよ」

寺山修司 『血は立ったまま眠っている』 より

Prologue

青年はいつもの様に陽気に語っていた。

「こ……クリス……役は、私に……ました」
(「今年のクリスマスのサンタクロース役は、急遽、この私になりました。」)

広場の賑わいの中では、その声はよく聞き取れるものではなかったが、
周囲の冷ややかな表情から他愛もない内容であることは容易に察しがついた。
不思議なのは、そんな他愛もない話をする青年の周りに人が集まることであった。
ひとしきり話終えると、青年は満足げに広場を去っていく。
それを皮切りに周囲の人々は口々に、青年への愚痴を漏らし始めた。

「あいつの見え見えの嘘には、そろそろ付き合いきれんな」
「そうそう、ほんとよね、よく飽きもせずにあんな白々しいことを言っていられるわ」
「嘘だとわかってりゃ害はないんだけどな」

どうやら去っていった青年は、いつもこの広場で他愛もない嘘を吐いているらしい。
幸い聴けば小さな子供でもわかるような突拍子もない大嘘ばかりつくため、
人を騙すというような悪評を被っているわけではないが、総じて人から信用されてはいないらしい。

――嘘を吐き続けて、そのまま人生の終焉を迎えられるのなら、あるいは幸せだったのかもしれない。
が、ただの嘘吐きのままでは終らせてくれないのが、人生というものではないだろうか。

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